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社内恋愛は要注意!「告白」だけでもセクハラになってしまう?

8月6日配信の読売新聞オンラインに次の記事が掲載されました。

公務で出張中の車内,部下の30代女性に好意伝える・・・地方機関の50代を注意処分

宮城県北部の県の地方機関に勤める50歳代の男性職員が,部下の30歳代の女性職員に好意を伝えるなどしたところ,女性が強いストレスによる体調不良で職場を休み,「職務上優位な立場を背景として行われた」として文書厳重注意処分を受けていたことがわかった。

処分は今年3月25日付。男性は昨年10月頃,部下の女性と公務で出張中に車内で2人だけになり,好意を伝え女性を困惑させた。男性は昨年11月にも女性を呼び出して個人的な感情を伝え,女性の手をつかんだという。

女性が職場に相談して発覚した。県は「業務遂行に大きな支障を生じさせ,誠に遺憾」として処分した。”

この記事はヤフーニュースにも掲載され,多数のコメントが寄せられました。その中には,上記男性の行為はセクハラに当たるとか,告白しただけなのでセクハラには当たらないとか,セクハラ該当性について言及するコメントも少なくありませんでした。 そこで,本稿では,本件の男性の行為がセクハラに当たるのかどうかを検討してみます。また,上記記事によると,注意処分の理由が「職務上優位な立場を背景として行われた」とされていることから,処分をした県は,男性の行為がパワハラに該当すると判断したように思われます。そこで,パワハラ該当性についても合わせて検討してみたいと思います。

問題となるセクハラの行為類型

厚労省が示した指針によると,セクハラには,職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受ける対価型と,当該性的な言動により労働者の職場環境が害される環境型があるとされています。詳細は別稿「セクハラの概念と法的責任」をお読み下さい。
本件では,特に女性が降格された等,労働条件について不利益を受けた事情がないため,環境型のセクハラに該当するかどうかが問題となります。

本件の事実関係

上記のとおり短い記事のため,詳細な事情は分からない部分も多いですが,記事から分かる事情を要素として抽出すると次のとおりとなります。

当事者に関する事情

①行為者は50歳代の男性職員(以下A)

②被害者は30歳代の女性職員(以下B)

③AとBは上司と部下の関係

問題となった行為1

④令和元年10月頃,公務で出張中の車内で被害者と二人きりになり,AはBに好意を伝えた

⑤④によりBは困惑した

問題となった行為2

⑥令和元年11月頃,AはBを呼び出して個人的な感情を伝えた

⑦⑥の際,AはBの手をつかんだ

被害の状況

⑧Bは強いストレスによる体調不良で職場を休んだ

Aの行為はセクハラに当たるのか?

告白だけでセクハラになる?

セクハラの該当性に否定的なコメントは,Aがしたことは,好意を伝えた,つまり告白しただけであって,程度としてセクハラとまではいえないのではないか,という内容が多かったように思います。

確かに,一般にセクハラというと,身体に触ったり,卑猥な内容の発言をしたりといったことが思い浮かぶところであり,指針もこのような行為を具体例として挙げています。しかしながら,この具体例は「典型的なもの」とされており,これに当てはまらない行為だからといってセクハラにならないというわけではありません。

そこで,Aの行為が,指針が示している環境型のセクハラの定義に当てはまるかを具体的に検討してみます。

指針の「環境型セクハラ」への当てはめ

指針は,環境型セクシュアルハラスメントを,「職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため,能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」と定義しています。

本件のAの行為がこの定義に当てはまるかどうかを検討すると,まず,「職場において行われ」たかどうかについては,上記事実関係の④については該当することが明らかであり,⑥については,業務の一環として呼び出したのであれば該当するといえそうです。また,上記事実関係の⑤,⑧のとおり,Bが困惑し,体調不良で休業するほど強いストレスを感じたことから,Aの④,⑥の行為は,「労働者の意に反する」ものであり,「労働者の就業環境が不快なものとなったため・・・看過できない程度の支障が生じ」させたものといえるでしょう。

そうすると,Aの行為,つまり告白したことが「性的な言動」に当たるかどうかが,セクハラに該当するかどうかを左右することになりそうです。

告白は「性的な言動」に当たるか

指針によると,「性的な言動」とは,性的な内容の発言及び性的な行動を指すとされています。

それでは,告白することは,性的な内容の発言といえるのでしょうか。この点,およそ成人の恋愛において,好意を寄せる相手に性的な関心が全くないという場合はあり得ないと考えられます。そうであれば,告白することにより,相手に対して,大なり小なり性的な関心をもっているということも伝えてしまうことになるといえます。そう考えると,告白すること自体,「性的な言動」に当たることになります。

以上より,本件のAの行為はセクハラに該当すると考えられます。

告白即セクハラになってしまうのか?

それでは,告白は全てセクハラとなってしまうのでしょうか。それではおちおち社内恋愛もできなくなってしまうではないか,というコメントがヤフーニュースにもされていたように思います。

結論からいうと,告白すること自体は,必ずしもセクハラには当たりません。確かに,上記のとおり,告白は「性的な言動」に当たるといえますが,それだけで直ちにセクハラとなるわけではなく,上記のとおり,それが相手の意に反し,また,就業環境を不快にさせ,看過できない程度の支障を生じさせるような場合にセクハラに該当することになります。つまり,相手の意に反したり,不快な思いをさせたりしないのであれば,告白はセクハラには当たらないということです。

では,告白がセクハラに当たる場合,当たらない場合の線引きはどうなるかというと,これはもうケースバイケースというほかありません。同じ職場の相手に告白するに当たっては,相手との関係や,告白する際の状況,発言の内容等を総合的にみて,相手に不快な思いをさせないかどうか,慎重に検討したいところです。

Aの行為はパワハラにも当たる?

ところで,Aの処分の理由は「職務上優位な立場を背景として行われた」というものでしたが,この表現からすれば,処分をした県としては,Aの行為をパワハラと認定したように思われます。

別稿「パワーハラスメントの概念と類型」にて詳細に解説していますが,パワハラの定義は,「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」とされています。

本件において,上記事実関係③のとおり,AとBは上司と部下という関係であり,年齢差からみても,AはBに対して優越的な関係にあったといえます。この点は上記のとおり県も認定しています。また,告白というのは,業務上明らかに必要のない行為であり,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものといえ,上記事実関係⑧のとおりBの就業環境を害していることからすれば,パワハラにも該当することになりそうです。

この点,セクハラの該当性でも疑問視する意見があったように,告白くらいでパワハラになってしまうのか,と思われる方もいらっしゃるかと思います。確かに,いわゆるパワハラの6類型(詳細は別稿「パワーハラスメントの概念と類型」をお読み下さい)のいずれにも,好意を伝えること自体は当たらないように思われます。しかしながら,パワハラの6類型は,パワハラに当たる行為を網羅しているものではなく,これらに分類できないパワハラ行為も存在するというのが支配的な見解です。そうすると,本件のAの行為は,上記のとおりパワハラの定義に当てはまる以上,パワハラといってよいでしょう。

まとめ

以上のとおり,本件のAの行為は,セクハラにもパワハラにも該当するといえそうです。このような結論だけをみると,職場で好きになった相手に告白もできないなんて世知辛い世の中だ,という意見が聞こえてきそうです。

しかしながら,上記のとおり,告白によって相手の職場環境を害してしまうことが,セクハラやパワハラに該当する要件となりますので,告白すること自体が直ちにこれらのハラスメントになる訳ではありません。結局,相手が自分の言動によりどう感じるか配慮することが重要で,このような姿勢はあらゆるハラスメント防止につながるといえるでしょう。

同じ職場に意中の相手がいる方は,告白することでどう思われるかを慎重に考えた上で,実行に移すかどうかを決断していただければと思います。

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