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紛争予防

パワハラやセクハラの通報や内部告発による炎上を防ぐには?報復人事は許される?

パワハラやセクハラといったハラスメント事案が発生することにより会社が被る不利益として,損害賠償請求や職場環境の悪化が挙げられますが,これらの他にも,社外にパワハラ等の事実が通報や内部告発により拡散されることによる風評被害も軽視できない問題です。特に,昨今では,ハラスメント事案に対する世論が一層厳しくなっていることに加え,SNS等により個人でも情報の発信が容易になっていることもあり,パワハラ等の直接の被害者でない第三者が匿名で外部に通報することも想定されます。このように,企業にとって,パワハラ等が不祥事として拡散されることによるレピュテーションリスクが高い環境となっています。

そこで,本稿では,パワハラ等の事実が内部通報等により社外に拡散されることをどのように防止するかを解説します。

なぜパワハラやセクハラの通報で“炎上”するのか

俗に,SNS等を通して企業の不祥事が拡散し深刻な風評被害が生じることが“炎上”と呼ばれます。数年前,コンビニエンスストアのアルバイト店員がアイスクリームのケースに入り込む様子をSNSにアップし,これが拡散され深刻な風評被害が生じるなど,いわゆる“バイトテロ”と呼ばれる炎上案件が相次いだことがありました。このようなバイトテロによる炎上は,意識の低い従業員が面白半分に起こすものなので,徹底した教育により防いでいくしかありません。

これに対し,パワハラ等のハラスメントによる炎上が起こる原因の多くは,従業員側の問題ではなく,会社がパワハラ等に適切な対応をしないことにあると思われます。会社側が,パワハラ等の相談・申告に対し放置や隠蔽といった不適切な対応しかせず,信頼関係が損なわれた結果,ハラスメント被害を外部に公表するしか手段がないと判断されてしまうことにより,炎上が起きてしまうということです。このような内部通報・内部告発は,パワハラ等の直接の被害者だけでなく,これを見かけた第三者により行われることも少なくありません。

パワハラ等による炎上は2段階で防止する

まずは会社として適切な対応をする

そうであれば,まず,会社としてパワハラ等のハラスメントが発生しても,これに対し適切な対応ができる体制を構築し運用することが,1段階目の炎上防止策として必要といえます。このように会社として適切な措置をとり,パワハラ等の相談窓口を周知することで,社外に情報が拡散して炎上するリスクは大幅に低減するでしょう。

パワハラ等の相談窓口の設置・運用については,別稿「社内にパワハラ相談窓口を設置し運用する際の留意点」をお読み下さい。

悪意ある内部告発・通報を抑止する

その上で,2段階目の防止策として,前述のバイトテロと同様に悪意ある社員による情報の漏洩・拡散を防止する措置をとることで,さらなるリスクの低減を図ることになります。具体的には,社員教育に加え,情報の漏洩・拡散に対しては解雇等の不利益処分を課すことで抑止力とすることが考えられます。

そこで,内部告発・通報を原因として,解雇等の不利益処分をすることが法的に許されるのかを以下解説します。

内部告発・通報を原因とする不利益処分に対する規制

パワハラ等の事実を内部告発等により社外に漏洩・拡散させたことを原因とする不利益処分は,無制限に許されるわけではなく,公益通報者保護法上の制度と,解雇権・懲戒権等の濫用法理により規制されます。これらについて以下解説します。

公益通報者保護法上の規制

規制の内容(どのように通報者が保護されるか)

公益通報者保護法により,後述の要件を満たした通報者は,公益通報をしたことを理由とする解雇やその他不利益処分が無効となるという保護が受けられます。また,令和2年の同法改正により,通報に伴い会社に生じた損害の賠償責任が免除されることになりました。

保護の要件

①労働者が,②不正の目的でなく,③労務提供先等について,④通報対象事実(法令違反行為)が生じ,または生じようとしている旨を,⑤通報先により定められた要件を満たす態様で通報することが必要です。詳細は次のとおりです。

①について

公務員も含みます。また,令和2年の同法改正により,退職者(退職後1年以内),役員が追加されました。パワハラ等については,直接の被害者だけでなく,これを見かけた第三者も労働者である以上,通報の主体となり得ます。

③について

雇用元,取引先等の事業者です。

④について

対象となる法令が政令で列挙されていますが,消費者庁のガイドラインによると,パワハラやセクハラについては,これらが暴行罪,傷害罪,強制わいせつ罪等の刑法違反となる場合に,通報対象事実と認められます。

⑤について

通報先は,ⅰ)事業者内部,ⅱ)通報する内容について処分または勧告等をする権限を有する行政機関,ⅲ)事業者外部の3つで,通報先によって公益通報として保護されるための要件が異なります。

具体的には次のとおりです。

ⅰ)事業者内部

通報対象事実が生じ,または生じようとしていると思料する場合

ⅱ)行政機関

・通報対象事実が生じ,または生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合

ⅲ)事業者外部

上記ⅱ)の要件に加え,次のいずれか一つに該当する場合

  • 事業者内部や行政機関に公益通報すると解雇その他の不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
  • 公益通報すると証拠隠滅等されるおそれがあると信じるに足りる相当の理由がある場合
  • 公益通報をすれば,役務提供先(会社)が,通報者の情報を,通報者を特定させるものと知りながら正当な理由なく漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合
  • 役務提供先から公益通報をしないことを正当な理由なく要求された場合
  • 書面により上記ⅰ)の通報をした日から20日を経過しても,当該通報対象事実について,役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は役務提供先等が正当な理由なく調査を行わない場合
  • 個人の生命もしくは身体に対する危害または個人の財産に対する損害が発生し,または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

コメント

上記のとおり,炎上の原因となる外部への通報・告発については,公益通報者保護法上の保護を受ける要件のハードルが高く,会社がパワハラ等の相談窓口を設置し,適切に運用している限り,上記の要件⑤を満たすことはほとんどないといえるでしょう。また,炎上させることを目的とする通報については,不正の目的といえるため,上記の要件②も満たさないといえます。

つまり,パワハラ等による炎上に対し,上記の1段階目の防止策をとっている限り,解雇等の不利益処分が公益通報者保護法により規制されることはほぼないといえます。

解雇権濫用法理等による規制

内部告発等が正当である場合には不利益処分は無効となる

パワハラ等の事実を内部告発等により社外に漏洩・拡散させたことを原因とする不利益処分が公益通報者保護法による規制を受けない場合であっても,不利益処分が常に有効となるわけではありません。すなわち,解雇等の不利益処分(人事異動等の配転命令も含む)が権利の濫用と評価される場合には無効とされてしまいます(労働契約法14条~16条)。このことは,公益通報者保護法8条2項及び3項にも明記されています。内部告発等に対しては,報復人事等が行われることがよくありますが,これも人事権の濫用となる場合には無効とされてしまいます。

それでは,どのような場合に,不利益処分が権利の濫用とされてしまうのでしょうか。この点,公益通報者保護法上の保護要件を満たさなくても,内部告発等が正当なものである場合には,これを原因とする不利益処分は権利の濫用となるものと考えられます。そうすると,どのような事情があれば内部告発等が正当と評価されるのかが問題となります。

内部告発等の正当性に関する裁判例の枠組み

内部告発等が正当かどうかについては,内部告発をしたことを原因とする不利益処分の有効性が争点となった裁判例で,①告発に係る事実が真実か,真実であると信じるに足りる合理的な理由があること,②告発内容に公益性が認められ,その動機も公益を実現する目的であること,③告発方法が不当とまではいえないことを総合考慮し,内部告発が正当な行為であって法的保護に値するという枠組みが示されています(トナミ運輸事件 富山地裁 平成17年2月23日判決・労判891号12頁)。

同裁判例の内部告発は,会社が他の同業者とヤミカルテルを結んでいたこと等を報道機関に告発したというものでしたが,上記②については,ヤミカルテルが公正かつ自由な競争を阻害しひいては顧客らの利益を害するものである等の理由により公益性ありと判断されています。また,告発した社員において,会社に対する感情的な反発があったこともうかがえる旨認定されていますが,仮にこのような感情が併存していたとしても,基本的に公益を実現する目的であったと認める妨げになるものではない旨判示されています。

上記③については,告発先が全国紙の新聞社であったことを指摘した上で,告発に係る違法な行為の内容が不特定多数に広がることが容易に予測され,少なくとも短期的には被告に打撃を与える可能性があることからすると,労働契約において要請される信頼関係維持の観点から,ある程度会社の被る不利益にも配慮することが必要であるとしています。その上で,本件では,ヤミカルテルが勤務先の会社だけでなく業界全体で行われていたことから,管理職でもなく発言力に乏しい告発者が会社内部でヤミカルテルの是正に努力しても,会社がこれに応じて是正措置を講じた可能性は極めて低かったと認められ,このような事情からすれば,告発者が会社内部での是正に向けた努力を十分しないまま外部の報道機関に告発したことは無理からぬことであり,内部告発の方法が不当であるとまではいえない旨判示しています。

コメント

以上のように,内部告発等が正当なものといえるかどうかの判断は,上記②の目的に関する要件について,会社に対する感情的な反発が併存していても公益目的と認めらており,③の方法に関する要件について,会社の被る不利益や,内部で是正できる状況かどうかといった事情が考慮されているように,ケース毎の事情が総合的に考慮されて決せられているといえます。この点,内部告発等が正当と評価される範囲は,公益通報者保護法により保護されるものよりも広いだけでなく,正当かどうかの判断もより複雑で難しいため,会社としては,解雇その他の不利益処分をするに際しては慎重な判断が要求されるといえます。

まとめ

以上のとおり,内部告発等を理由とする解雇等の不利益処分は,無効となる範囲が広く,公益通報者保護法により規制される範囲を包含しているといえます。そのため,不利益処分をするかどうかは,上記裁判例の枠組みを参考に,内部告発等が正当なものかどうかにより判断するとよいでしょう。この判断は事案ごとに事情を総合考慮する必要があり慎重に行われるべきですが,実際に処分をしなくても,就業規則等により懲戒事由として定めて周知することで,抑止力として機能することは十分期待できます。

ただし,このような2段階目の防止策は,1段階目の防止策として,パワハラ等の相談に適切な対応ができる体制を整備することが前提であることに留意しましょう。これにより,パワハラ等を見かけた第三者を通して,外部に情報が拡散してしまうリスクは相当抑えられる上,仮に社員がそのような措置に出た場合でも,目的や方法の面で,不利益処分が有効となる事情となります。

そもそも,パワハラ等の事実がひとたび社外に通報され炎上案件となり会社の評判が損なわれてしまうと,これを回復するのは極めて困難といえます。そのため,炎上自体を事前に防がなければならず,この意味でも1段階目の防止策は重要といえるでしょう。

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